急速に広告媒体化するネットと、GoogleによるCGMの値付け戦略
Googleが「Advertiser Sign-Up」という仕組みを提供開始しているようだ。サイボウズ小川氏のコラムでさっそく紹介されている。
Googleと契約している広告主は、いままではGoogleがセレクトしたサイトしか選択できなかったが、今後は好きなサイトにダイレクトに広告を出すことができるようになる。
これに関連して、WEBサイトの価格についての競りモデルの話がトラックバックされていた。
多くのwebサイトが「広告出稿の価格は要相談」になっている事に疑問は感じていて、適正価格ってのが、広告を出したい人達による入札を受け付けて落札させる仕組みで導き出せるんじゃないかと考えていた
このへんの「サイトの値段」についての話は「WEB2.0」や「CGMの影響力増大」というトレンドと密接に絡んでいて、考えてみるととてもおもしろい。ちょっと三者の関係について考えを整理してみる。
「WEB2.0」といわれるトレンドと、それによって発見されていく価値
いま、インターネットの世界で起っていることは、
この二つ。
これによってこれまで見つけることができなかった価値をより簡単に(つまり計算機が)見つけ出せるようになった。
「これまで見つけることのできなかった価値」を具体的に言えば、例えば次のようなもの。
- 算出コストが高すぎてこれまで誰も算出しなかったようなトレンド
- 流通経路を持たないためにこれまで誰の目にも触れなかったようなコンテンツ
- 構築コストが高すぎてこれまで誰も普及可能なレベルのユーザビリティを達成できなかったようなアプリケーション
によって生み出される価値なんかも含まれるだろう。
「Web2.0」がもたらす広告媒体の概念の変化、CGMの影響力増大
こうして新しい価値を発掘できるようになったことでWEB上の広告媒体の概念が変わった。
従来、広告媒体となりうる「コンテンツ」と言えば、ニュースであり、スポーツであり、マガジンであり、キャラクターであった。これらは、充分な量の人数に対して訴求力があるからこそ(広告媒体として)収益化可能なコンテンツとして存在しえた。ネット上においても当初広告はマスを対象とするものであったから、こうしたコンテンツが「広告媒体」として売りに出された。
しかし上に述べたようなWEBの進化によって新しい価値を取り出すことが可能になったことで、より露出量が少なくても効果の高い広告が出せるようになり、コンテンツに広告を出して収益化できる可能性は大きく広がった。(まぁほとんどGoogle様が先鞭をつけたもんだな、、。) これによってインターネット上のほとんどの情報は、広告媒体としての可能性をもつことになった。
なかでも、情報の「消費者」自身が生み出す情報の付加価値は高い。なぜなら
- 消費に対する評価
- 消費シーンの具体的な叙述
といった消費意欲を高める情報が含まれる上に、そうした情報自体が日常の人間関係の文脈におかれることが多いため、
- パーソナルな関係が継続する限り、情報に接触する機会が継続する
- パーソナルな関係の信頼性が、消費に対しても一部付与される
という特性があるからだ。この「情報の消費者自身が生み出す情報」を概念化したのが、「消費者生成メディア」(CGM、Consumer Generated Media)という概念だ。
ここから「Web2.0」的に価値を取り出して広告媒体として収益化しよう、というのがいまのハヤり。
特に「機能のコモディティ化」というトレンドのせいで機能だけを収益化するのがより困難になっているので、過去に「機能」を提供していた企業が、機能の利用者のデータをなんとか工夫して「CGM」として価値をもたせて売りに出そうとする流れが顕著。
CGMの値付けという問題と、Googleの戦略
冒頭のGoogleの「Advertiser Sign-Up」の話や、WEBサイトの広告価値の競売モデルの話は、このCGMの価値が評価されていることに絡む。
上で述べたようなトレンドが当面継続するとすると、当面CGMの広告媒体としての価値は上がる一方だ。とすれば当然、じゃあそのCGMからのトラフィックにはいくら払えば適正なんだ?みたいな話が出てくる。それが冒頭の話なんだと。
大Google様の最近の動きはかなりの部分が、この領域をおさえるものに見える。
例えば、これまで用意していた
- サイトの文言を、関連キーワードベースで値付けする「Google AdSense」
に加えて
- 個々のCGMサイトを、トラフィックベースで評価、最適化する「Google Analitics」
- 個々のCGMサイトを、広告主の要望ベースで値付けする「Google Advertiser Sign-Up」
- 個々のマイクロコンテンツを、メタデータで集計して値付けする「Google Base」
みたいな。「Google Base」はちょっと違う話か。
メタデータである「Google-Sitemap」を組み合わせることでより正確にコンテンツ単位の評価が可能になる(ファイル、URL単位じゃなくて)、とかもあるな。ほかにも、CGMサイトの継続的な読者数やそのロイヤリティを測るツールとしては、RSSの購読とクリックってのは適当なモノサシだろうから*2、RSSが一般化し次第ここにも手をつけそうだ。
「Google Advertiser Sign-Up」については、CGMの市場価値が認知されてきたタイミングを見計らって、つまりより強い出稿ニーズが生まれるタイミングで、収益機会を最大化しようとしてるものだと感じた。CGMに対する評価が低いうちは、量を売りにした「Google AdSense」で稼ぎ、評価があがってくるタイミングで、質についても値付けする「Google Advertiser Sign-Up」を出したと。*3
そう考えると、Googleは基本的に、オンライン広告の1to1プライシングの精度をより高め、かつ大規模でやることで利ざやを稼ごうとする戦略なんだな。
個々の顧客にとっての問題を
- 払うか払わないか
から
- いくらまでなら払うか
にすり替えてしまった上で問題を解決すれば、当然最大の売上げが得られるんだし。
まとめ
まとめると
みたいな感じだろうか。
*1:「Web2.0」って単語は、この複合的なトレンドをひとくくりにする単語で、特に「Blogの普及→XML/Webサービスの可能性開花」によってトレンドが加速されて、新しい価値が見出される可能性が顕著になったので便宜的に名前がついたものだと理解している。その実体について定義や好悪を議論するのはあまり実りがない。
*2:RSSの購読とクリックが長期的に、サイトを評価するいいモノサシになるってのは間違いない。検索からのトラフィックはキーワードを目的としたトラフィックだが、RSSからのトラフィックはサイトもしくはコンテンツそのものを目的としたトラフィックだから。ついでに、現時点でそのへんのデータをとれそうなのは、RSSパブリッシャ側だとFeedburner、Feedmeterとかだし、リーダ側だとBloglinesとかMyYahooとかなはず。データ、そういうふうに使わないんだろうか。おれの勤務先のRSS Suite もRSSの購読、クリックあたりの機能はあるけど企業向けにやってる限りはCGMの評価はできないな。
*3:こじつけです