企業サイトにおいて、Web 2.0をどうマーケティングに活用するのか

Web 2.0と総称される流れを、サイト制作側の視点からまとめた素晴らしい記事を読んで。

Web 2.0, a vision of the Web in which information is broken up into 'microcontent' units that can be distributed over dozens of domains.

ちょっとマーケティング的な観点からもまとめてみたくなった。

Web2.0を構成する要素と、その効果把握の軸

Web2.0とは、上の引用にあるように、コンテンツが「記事単位」に分解されて、それにメタ情報が付加されながら伝播していく、そのインフラが整った時に出現する「インターネット像」を表す言葉だ。

コンテンツが伝播していくためのインフラの具体的な構成要素はBlog、RSSSBM(Social Bookmark, ソーシャルブックマーク)&SNS(Social Network Services, ソーシャルネットワーク)、コンテンツシンジケーション(RSS等を使ったコンテンツのリミックス)、などが該当するだろう。また、naoya氏の記事「はてながこだわるWebサービス提供の本音 (1/3) - CNET Japan」に示されるように、上記のサービスそのものも機能単位で分解され、Webサービスという形でさらに伝播していくという方向性もあるはずだ。

これらが充分に普及したとき(IE7、Blog&CMSのさらなる普及、Yahoo Search、などがその呼び水となるだろう)、コンテンツの伝播の可能性を閉ざしていることは、重要なトラフィック源やコミュニケーションの可能性をみすみす捨てていることと同義になる。

個人的にはこれは10年近く前、WWWの普及期に各企業が「自社のホームページを持つか持たないか」の選択を迫られたことと似ている気がする。だからこそ、現在の動きが「WWW=Web1.0」に並ぶムーブメントであるという意味で「Web2.0」と総称されているのだろう。

では、企業サイトはこうした新しいインターネット像にどのように適応していけばいいのか

まだおぼろげな形ではあるが、その方向性は、リテンションとアクイジションの軸で整理できるのではないかと考えている。

リテンションの方向性は?(Webサイト、メールマーケティング

リテンションにおけるWeb2.0関連技術の活用は、WEBサイトやメールで配信していた情報を、ユーザーが手元でツールを使ってリミックスして取り出せるようにする(消費者便益を高める)ことで、消費者のスティッキネス(「自社情報への情報接触頻度」とでも言えばいいか?)を向上させる、という観点で行うべきだ。

WebサイトにおけるWeb2.0の活用

例えば「RSS使ったページのパーソナライズと、機能のコモディティ化」でとりあげたニュースサイトのように、マイページをつくり、情報をパーソナライズすることで消費者便益を高め、スティッキネスを向上すべきだ。

従来この路線は、非常に高価なOne to Oneマーケティングツールを使うことでしか、達成できなかったが、Blog、RSSなどのインフラ普及により、比較的容易に取り組めるようになった。

また、壁紙やスクリーンセーバー、携帯サイト、携帯待ち受けなどにも、同様にパーソナライズ機能を持ち込むことができる。

メールマーケティングにおけるWeb 2.0の活用

Web2.0の活用を考えるなら、メールによる継続的コミュニケーションは、基本的に全てRSSに置き換えるべきだ。

メールは個別の情報単位に分解することも、再利用することも、一意なURLで言及することもできない。受け手が自らの意思で取得する情報をコントロールすることすらできない。

これを、XML技術の強みを最大限に生かしたRSSに変更することで、継続的な顧客接触を、顧客のリミックスの余地を最大限に残した形で、実現することができる。

ただし、RSSを導入しただけでは、情報単位での一意なURLで参照ができず、SBMやBlog等での被引用が期待できなくなってしまう。したがって、PermalinkRSSとをセットで考えるべきだ。RSSにおけるアイテムのリンク先は、アイテムと1対1で対応すべきだ、とも言える。

  • 最重要課題
  • 余力に応じて
    • パーソナライズRSS

※コンテンツ自体が「伝播」という特性をもつようになることで、企業のRSSを直接、メールと同様の形で消費者が受信するというコミュニケーション様式は廃れるかもしれない。その場合、どこかでremixerによってremixされたコンテンツを消費者が受信することになり、アクイジションとの境目が薄れてくる。

※継続的な顧客接触RSS、直接必要なコミュニケーション(注文や発送の確認etc)のみがメール、という役割分担が行われるだろう。

アクイジションの方向性は?(ネット広告、SMO、サーチ)

Web2.0時代のリテンション強化の重点が、コンテンツ伝播の余地を作ることにあったのに対し、アクイジション強化の重点は、コンテンツを積極的に伝播させるためにはどうすればいいか、広告やSEOなどの各種アクイジションツールとどのように対峙すればいいのか、というところにある。

Web 2.0時代のネット広告

質の高い読み物が増加し(Blog)、友達とのコミュニケーションが統合され(SNS)、個人的な関心事を簡単にトラッキングできるようになり(キーワードでRSS)、他人がおもしろいと思ったコンテンツを手軽に知れるようになり(SBM)、情報の取得にとって必ずしもマスメディア系サイトは重要ではなくなっている。

マス化することでトラフィックを集められた時代から、質の高いremixによってトラフィックが集まる時代へと変化しているからだ。

したがってWeb2.0においては、消費者のトラフィックは、マスメディア系サイトから、SBMSNSなどのコンテンツremixツールや、CGM(Consumer Generated media, コンシューマジェネレーテッドメディア)へと相対的に移行していく。

そのことで、マスメディア系サイトに広告出稿することの価値は(テレビCMの価値と同様に)一部の例外を除いて長期的には低下し、コンテンツremixツール、もしくはコンシューマジェネレーテッドメディアをいかに活用するかという部分の重要度が高まるだろう。

Web2.0によって出現するSMOという考え方

また、マスからCGMへとトラフィック源が移行していく過程で、影響力の強いConsumer(プロシューマーやインフルエンサーと呼ばれたりもする。技術系なら「Geek」となるのかも? 以下「インフルエンサー」)の果たす役割は増加する。

彼らがGenerateするコンテンツは、Web2.0の伝播ネットワークを浸透する可能性が、つまり、Blogで紹介される、SNSのコミュニティで紹介される、SBMされて共有される、、などの可能性が高い。

また、さらにBlogやSNSSBMのコンテンツの読者は、たいていは、書き手と直接知り合いであるか、親近感を持っているか、コンテンツに関心があるかの、どれかに該当する。つまり、そこに書かれたリンクをクリックする時には、既にリンク先のコンテンツに対して、ある程度の信頼感があるか、自分の関心に近いか、どちらかであるはずだ。(from:SMO(Social Marketing Optimization)の効果測定)

このCGM経由のトラフィックは今後、Web2.0のインフラであるコンテンツ伝播ネットワークの整備や充実と共に、量も質も向上していくはずだ。これに対応するのがSMO(Social Marketing Optimization)というアプローチだ。

職場のボスがまとめた記事としてはこんな感じの絵になってる。

上記記事での主張を再度繰り返すと課題は下記:

  • ◎Blogを書く
    • 継続的に、パーソナリティを持ったコンテンツを公開することで、コミュニティとの親和性増大
    • トラックバックとかで、紹介しやすさ増大
  • ◎言及できるようにする(Permalink
    • できないとSBMされない、Blogに書かれない
  • RSSを配信する
    • コンシューマーに継続的に情報を取得してもらえる機会が増える。
    • コンテンツアグリゲーターなど、他のサイトに自動的に取りあげてもらえる。
    • 紹介しやすさ増大

※ただし、この流れに消費財を完全に組み込むには、簡単に言及できるよう、どこかで情報をデジタル化して、言及するためのPermalinkと結びつけることが必要になってくる。これはICタグなどの方向で実現されるのかもしれない。当面は、消費者の情報探索欲や言及欲をかきたてる高級商材や情報商材からこの流れははじまっていくのだろうと思う。

サーチは? SEOは?

下は、米Yahoo が提供しているサーチ機能の部分拡大だ。すでに、検索結果の保存や、検索結果から直接RSS購読を行うパスが整備されている。

検索結果の保存はURL単位で行われ、次のような、WEBメールのようなインターフェイスで保存されていく。

コメントをつけたり、ブログとソーシャルネットワーキングを組み合わせた新サービス「Yahoo! 360°」で共有することも可能になるようだ。フォルダ単位で共有して、フォルダごとにRSS購読することも可能だ。おそろしいことに、メールやメッセンジャーとも統合されている。(それにしてもこのインターフェイスはすごい。これだけ多岐にわたる機能を違和感なく統合してる、、)

検索されたコンテンツは、Web2.0時代においてはこのような機能を経路として、再利用され、伝播していくことになる。

SEOは、単純なページやサイトの検索対象としての最適化ではなく、伝播型コンテンツとしても最適化されることが必要とされるようになる。それにはやはり、情報単位でURLを持っていることが重要になる。

当然ながら、前述したSMO等での被言及数の増加もSEO対策としては重要になってくるので、やはりここでも重要になってくるのは、Permalink対応になるのではないか?

また、検索結果の出力時に、既にRSSの情報が組み込まれている。今後単純に情報が表示されるだけで終わるのか、メタ情報として活用されるようになるのかはわからないが、いずれにしてもRSS対応していた方が有利になりそうだ。

つまり?

これらのことをまとめると、いままでサイト、メール、広告、SEOと別々に取り組んできたオンラインマーケティング活動に対して、RSSPermalinkという共通の軸ができることになる。アクイジションのところは特に、広告もサーチも、SMOとの関係が重要になるはず。

逆に言えば、この二つに取り組むことで、Web2.0的な流れに乗り遅れることなく動向を検討する時間が持てるようになるのではないか。

まだまだ推測の域を出ず、今後の動向が非常に楽しみな分野ではあるが、あえて絞り込むとすれば、下記のような仮説が成り立つのではないかと思っている。

  • 仮説:企業のWeb 2.0対応において重要なこと
    • 情報をPermalink単位で分解できるような仕組みをもつこと
    • 上記と対応してRSSなどの伝播型コンテンツを準備すること

スローガンめいて言うならば「Be remixable!」とでも言うべきだろうか。

これの、一番簡単で、象徴的な動きが「Blog」として認知されてきたというのが、現在の状況だと考えている。